社労士コラム 第88回

2026年10月1日、「短時間労働者及び有期雇用労働者の改善等に関する法律(以下、「パート・有期雇用労働法」という。)施行規則」と、「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(いわゆる同一労働同一賃金ガイドライン。以下、「同一労働同一賃金ガイドライン」という。)」、及び「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等についての指針(以下、「雇用管理指針」という。)」の改正が行われ、パートタイム・有期雇用労働者に関するルールが変わります。
これまでの最高裁判例や実務上の課題を踏まえ、会社側に新たな義務が課されることとなったほか、不合理な待遇差の判断基準がより明確化されました。今回は、主な改正点と会社が施行日までに確認・対応すべき実務上の要点について解説していきます。
1. パート・有期雇用労働法施行規則の改正
雇い入れ時における「労働条件明示事項」の追加
パート・有期雇用労働法の第14条第2項で、会社は、その雇用するパートタイム・有期雇用労働者から求めがあったときは、正社員との間の待遇の相違内容や決定をするに当たって考慮した事項について、当該パートタイム・有期雇用労働者に説明しなければならないとされています。
今回の改正で、現行の明示事項(昇給の有無、賞与・退職金の有無、相談窓口)に加え、新たに「待遇の相違の内容や理由等について、会社に対して説明を求めることができる」旨を労働条件通知書等に明記することが義務付けられます。
労働条件通知書等で「待遇差についての説明を求めることができる」旨を明示することで、従業員に周知させ、説明義務の実行性を高めることが狙いです。
なお、この明示義務に違反した会社に対しては、パート・有期雇用労働法第31条により10万円以下の過料に処される可能性があります。
2. 同一労働同一賃金ガイドラインの改正
各種手当・福利厚生・休暇における不合理な待遇差の解消
パート・有期雇用労働法では、正社員とパートタイム・有期雇用労働者の待遇(基本給や各種手当、福利厚生など)について、不合理な差を設けることを禁止しています。
これまでも、同一労働同一賃金ガイドラインによって「不合理な待遇差の判断基準」が示されていました。今回の改正では近年の判例や最高裁判決の動向を反映し、不合理な待遇差の判断基準がより具体的に示されています。主な改正内容を取り上げてみました。
(1) 各種手当の支給
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賞与・退職手当(追記)
賞与や退職手当はその支給目的や性質が、労働の対価の後払い、功労報酬、生活費の補助など様々です。そのため、パートタイム・有期雇用労働者に対し、正社員との間の職務内容等の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理な待遇差と認められる可能性がある旨が注釈に記載されました。 -
無事故手当(追加)
正社員と業務の内容が同一のパートタイム・有期雇用労働者には正社員と同一の無事故手当を支給しなければなりません。 -
家族手当(追加)
労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければなりません。 -
住宅手当(追加)
住宅手当が転居を伴う配置変更の有無に応じて支給されるものである場合、正社員と同様に転居を伴う配置変更があるパートタイム・有期雇用労働者に対しても同一の支給をしなければなりません。
(2) 休暇制度・休職制度の適正化
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病気休職制度(追記)
正社員に病気休職期間に係る給与の保障を行う場合には、労働契約更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者に対しても、正社員と同一の給与の保障をしなければなりません。
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夏季休暇・冬季休暇(追加)
パートタイム・有期雇用労働者にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければなりません。
(3) 福利厚生(褒賞)の適用
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褒賞(追加)
褒賞であって、一定の期間勤続した労働者に付与するものである場合(いわゆる永年勤続表彰)、正社員と同一の期間勤続したパートタイム・有期雇用労働者には、正社員と同一の褒賞を付与しなければなりません。
各種手当、休暇・休職、福利厚生における待遇差が一律にダメだという訳ではありません。それぞれの処遇について、制度趣旨や目的に照らして、業務内容やその様態に応じた合理性のある待遇差であれば差支えないでしょう。そこで、各種手当や制度について、あらかじめ支給や制度の目的を明確にしておくことが重要と言えます。
また、家族手当や休職制度などの基準となる「相応に継続的な勤務」が何年程度なのか具体的な年数は示されていません。会社としてどの程度であれば「相応に継続的な勤務」であると考えるのか、こちらも明確に定めておく必要があるでしょう。
3. パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理指針の改正
今回の改正では、パートタイム・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を促すために、パートタイム・有期雇用労働者にも職業能力開発法の適用があることを認識し、遵守しなければならないこと、職務内容や成果などを公正に評価し、昇給に反映する等、公正な評価に基づき賃金を決定することが望ましいことなど、待遇や雇用環境など多岐にわたる内容が追加されています。今回、ここで全ての項目について解説はできませんが、中でも実務対応でポイントとなりそうな2点についてピックアップして確認したいと思います。
(1) 過半数代表者の選出要件厳格化と不利益取扱いの禁止
パートタイム・有期雇用労働者に関する事項について就業規則等の作成や変更を行う際には、パートタイム・有期雇用労働者の過半数を代表する者から意見を聞くように努めなければならないとされています。この意見を取りまとめる「パートタイム・有期雇用労働者の過半数を代表する者」について、選出要件や取扱いについて明記されました。
過半数代表者の選出にあたっては、以下の適格要件を満たすことが必須となります。
- 1. 労働基準法上の監督又は管理の地位にある者でないこと。
- 2. パート・有期雇用労働法第7条の規定により、意見を聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続きにより選出された者であって、事業主の意向に基づき選出されたものでないこと。
会社側が特定の人物を指名するような形骸化した選出プロセスでは要件を満たしませんので、社内の選出手続きについて適正に選出されているか再確認が必要です。
また、過半数代表者として選出されたパートタイム・有期雇用労働者が代表者として正当な行為をしたこと等を理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならないとされ、不利益取扱いの禁止が規定されました。(改正前は「不利益な取扱いをしないようにするものとする」とされていました。)
(2) 待遇差についての説明方法
前述の“1. パート・有期雇用労働法施行規則の改正”で触れたように、会社は、パートタイム・有期雇用労働者から説明を求められた場合、待遇の相違内容等を説明する義務があります。雇用管理指針では、その説明方法について「資料を活用し、口頭により説明する方法」又は「説明すべき事項を全て記載した、パートタイム・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を交付する等の方法」によるものとすると定めています。
また、説明の求めがない場合であっても、労働契約の更新の際等に、当該パートタイム・有期雇用労働者に対し、パートタイム・有期雇用労働者が「待遇の相違の内容及び理由について容易に理解できる内容の資料を交付すること」や、「待遇の相違の内容及び理由について説明を求めることができることを周知すること」等が望ましいとしています。
4.会社が取り組むべき実務対応
このように、パートタイム・有期雇用労働者の処遇を改善するために、様々な改正が行われます。そこで、改正に対応するために実務で必要となる対応を確認していきたいと思います。
①労働条件通知書等のひな形の改訂
パートタイム・有期雇用労働者の新規採用時及び契約更新時に使用する契約書等の雛形に、「待遇差に関する説明を求めることができる」こと、及び「担当窓口」に関する文言を新たに追加する必要があります。2026年10月1日以降の契約締結から確実に運用できるよう、事前の準備が必要です。モデルとなるひな形が厚生労働省のHPで公開されていますので、参考にしてみてください。
②賃金規程・福利厚生制度の総点検(同一労働同一賃金ガイドライン対応)
同一労働同一賃金ガイドラインの改正により、各種手当の「支給目的」をはっきりさせておく必要があります。自社の諸手当・休暇制度の「支給目的」を再定義し、パートタイム・有期雇用労働者に適用除外としている合理的な理由が法的に説明できるか精査します。要件が合致する場合は、同一支給・付与となるよう規程の改定が必要となります。
③労使意見聴取プロセスの見直し(雇用管理指針対応)
パートタイム・有期雇用労働者の過半数代表者を選出する際の手続きが、従業員の自発的な意思に基づくもの(投票・挙手等)になっているか、社内運用のルールを再確認しましょう。選出方法が形骸化している場合には選出のプロセスを見直すことが必要です。
今回の改正は、一部で配慮義務や努力義務にとどまる点もありますが、特に同一労働同一賃金ガイドラインの内容は、これまでの司法判断の基準がルールとして定着し、指針として定められたものであり、会社に対してより誠実かつ厳格な労務管理を迫るものといえます。
法的なリスクを回避し、同時に多様な人材が安心して活躍できる職場環境を整えるためにも、施行日に向けた計画的な準備を早期に開始されることをお勧めいたします。