社労士コラム 第87回

営業職や直行直帰になる出張、在宅勤務(テレワーク)を導入している企業において、「事業場外労働のみなし労働時間制(労働基準法第38条の2)」を適用して労働時間を算定しているケースが多いのではないでしょうか?しかし、その要件の解釈や裁量労働制との誤認、労働時間の算定方法の誤りなどにより、正しく適用できておらず、未払い残業代の発生を招きやすい制度でもあります。
今回は、あらためて事業場外みなし労働時間制の基本を確認しつつ、実務で注意すべき事項を解説します。
1. 事業場外労働のみなし労働時間制が適用される業務とは?
事業場外労働のみなし労働時間制の対象となるのは、“事業場外で業務に従事し、使用者の具体的な指揮監督が及ばず労働時間が算定し難い業務”に限られます。単に「物理的に社外にいること」や「直行直帰であること」は理由になりません。
つまり、使用者の指揮監督が及んでおり、客観的に労働時間の把握が可能と判断される場合には適用されないということです。具体的には以下のような場合です。
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目的・ルート等の完全拘束:
事業場において当日の訪問先、訪問順序、帰社時刻等の具体的な指示を受けた後、その指示通りに業務に従事して事業場に戻る場合。 -
常時通信・随時指示:
モバイル端末やチャット、内蔵されたGPS等により、随時会社から具体的な指示を受け、また労働者側もリアルタイムでの実況報告(即レス等)を義務付けられている場合。 -
管理者の同行:
複数人のグループで事業場外労働に従事し、そのメンバーの中に労働時間を管理する者がいる場合。
また、裁量労働制との違いについても注意が必要になります。一定の労働時間を働いたものとみなすという点で類似しているものの、裁量労働制は労働の量よりも「質」に着目した方が適切と考えられる高度の専門的裁量的業務に適用される制度であり、「事業場外」で「労働時間が算定し難い」場合に適用される、事業場外労働のみなし労働時間制とは異なるものです。
2. 事業場外労働のみなし労働時間制における労働時間の算定方法
事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合、労働時間は次の3つの方法により算定されます。
- ①所定労働時間
- ②所定労働時間を超えて労働することが必要な場合には、その業務について通常必要とされる労働時間(以下、「通常必要時間」と言う。)
- ③②の場合で、労使協定が締結された場合には、労使協定で定められた労働時間
なお、この労使協定で定める通常必要時間が法定労働時間(8時間)を超える場合は、過半数代表者等と労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
また、1日の労働時間のカウントは、事業場外労働のみなし労働時間制がその日の労働時間の全部であるか、一部であるかによって異なってきます。
パターンA:1日の「全部」を事業場外で労働した場合
直行直帰などで、1日中社外で業務に従事した場合は、以下のいずれかで算定します。
- 原則:所定労働時間働いたものとみなします。
- 例外:その業務を遂行するために、通常であれば所定労働時間を超えて労働することが必要な場合(例:遠方への巡回で移動を含めどうしても10時間かかる等)は、通常必要時間※労働したものとみなします。
- ※通常必要時間の決定について、労使協定によって定めた場合はその労使協定で定めた時間となります。
パターンB:1日の「一部」に事業場内労働(内勤)が含まれる場合
営業職などに多い「午前中は社内で資料作成(内勤)、午後から外回り(外勤)をして直帰」といったケースです。
この場合、事業場内で労働した時間(以下、「事業場内労働時間」という。)については、みなしの対象にできず、別途事業場内労働時間を把握しなければなりません。
そのため、社内での労働時間(内勤)はタイムカード等で事業場内労働時間として計測し、外勤部分については通常必要時間を労働したものとみなします。それぞれの労働時間を算定したうえで、内勤の事業場内労働時間と、外勤の通常必要時間を“合算”して1日の労働時間とします。
この合算した労働時間が所定労働時間以内である場合には、その日の外勤については内勤と合わせて1日の所定労働時間を労働したものとみなされ、合算した労働時間が所定労働時間を超える場合には、内勤の事業場内労働時間と外勤の通常必要時間の合計がその日の労働時間となります。
【例1】所定労働時間 7時間30分
- ・内勤の事業場内労働時間:3時間
- ・外勤の通常必要時間:4時間
- ・1日の合算労働時間:3時間 + 4時間 = 7時間
- ・7時間<所定労働時間
⇒この日の1日の労働時間は7時間30分(所定労働時間)となる。
【例2】所定労働時間 7時間30分
- ・内勤の事業場内労働時間:3時間
- ・外勤の通常必要時間:6時間
- ・1日の合算労働時間:3時間 + 6時間 = 9時間
- ・9時間>所定労働時間
⇒この日の1日の労働時間は9時間となる。
この場合、法定労働時間(8時間)を超えた「1時間分」については、時間外労働手当(割増賃金)の支払が必要です。外勤が混ざっているからといって、1日全体を自動的に所定労働時間労働したものとみなすという運用はできません。
営業職のように1日に何度も内勤と外勤を繰り返す場合、日毎に内勤の事業場内労働時間集計と外勤の通常必要時間を集計することになり勤怠管理が非常に煩雑なものになります。
このように、パターンAの場合はともかく、パターンBは労働時間管理が煩雑であり、未払い残業代が発生しないよう特に注意が必要です。
3. 「労働時間が算定し難い」場合とは?
事業場外労働のみなし労働時間制で最も難しいところは、「労働時間が算定し難い」業務であるかどうかの判断です。
スマートフォンやアプリ等で随時連絡が可能となり、加えてテレワークの広まりなど事業場外労働についても多様化しています。阪急トラベルサポート事件や協同組合グローブ事件などの裁判例でも示されているように、通信手段や業務日報といった管理ツールの有無、業務内容をもって定型的に判断することは難しく、業務の態様や遂行の状況等、業務に関する指示や報告の方法などの要素を考慮しながら個々の勤務ごとの具体的な事情に着目したうえで判断する必要があるとされています。
つまり、事業場外労働について、業務の態様が労働時間管理に馴染むものであるか、具体的な業務指示を出しているか、報告の方法や頻度をどう指示しているか、業務の遂行に際し、時間配分や時間管理についてどの程度従業員の判断に任せているか、実態として業務と業務外の時間を切り分けることができるかなど複数の視点で確認し、そのうえで労働時間が算定し難いという場合には事業場外労働のみなし労働時間制を採用できるということになります。裏を返せば、検討の結果、労働時間が算定し難いと言えない場合には、事業場外の労働であっても管理ツール等を活用して、正確な労働時間管理ができるよう対策をとらなくてはなりません。
4. トラブルを未然に防ぐための再点検のポイント
冒頭でもお伝えしましたが、事業場外労働のみなし労働時間制は正しく適用されていない場合、未払い残業代の問題が発生する可能性があります。
事業場外の業務がある従業員について、その業務管理やスケジュール管理はどのように行っているでしょうか。事業場外労働のみなし労働時間制の要件に照らし合わせて“労働時間が算定し難い”と言えるか今一度確認をしてみてください。
会社側が業務遂行や労働時間について管理ができる場合には、事業場外の勤務であっても原則どおりの労働時間管理をすることをおすすめします。そうはいっても、一定の業務について実態として労働時間管理が難しい場合もあると思います。事業場外労働のみなし労働時間制を採用する場合にも、労働時間管理の可能性について検討しプロセスを踏むことが重要です。この機会に自社の運用が法令に適したものであるか、専門家と共に再確認してみてはいかがでしょうか。




