column 社労士コラム

対応が急がれるカスタマーハラスメント対策

コラム 第71回

2025.02.03

令和6年10月、東京都では全国初となる「東京都カスタマー・ハラスメント防止条例」が制定され、令和7年4月1日から施行されます。これに伴い、令和6年12月には「カスタマーハラスメントの防止に関する指針(ガイドライン)」が発表され、カスタマーハラスメント(以下、「カスハラ」と言う)の定義や企業に求められる対応などが示されました。

また、令和6年12月26日には労働政策審議会から厚生労働大臣に、事業主に対してカスハラ対策を雇用管理上の措置義務とするべきとの建議が提出されており、義務化に向けた検討が進められています。

今回は、カスハラについてその定義や対策について確認していきましょう。

カスハラの定義とは?

厚生労働省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」(以下、「厚生労働省のマニュアル」と言う)では、カスハラを以下のように定義しています。

「顧客等からのクレームや言動のうち、要求内容の妥当性や実現手段が社会通念上不相当であり、その結果、労働者の就業環境が害されるもの」

この定義に基づき、以下の2点がカスハラか否かの判断ポイントとなります。

  • ① 要求内容の妥当性があるか。
  • ② 要求を実現する手段や態様が社会的に相当な範囲に収まっているか。

しかし、業種や業態によって顧客との関係性は様々で、特に要求内容の妥当性については会社によって判断が分かれるところです。そのため、上記ポイントに基づき、カスハラに該当するか否かの具体的な判断基準を明確にし、社内の対応方針を決定しておくことが重要です。

カスハラがもたらす影響

カスハラは、被害を受けた従業員だけでなく、会社全体にも深刻な影響を与えます。

  • 従業員の心身への負担
    カスハラは、業務へのモチベーション低下や健康不良を引き起こし、最悪の場合、離職に繋がります。
  • 業務の停滞
    カスハラ対応に時間を割くことで、通常業務に支障をきたします。さらに、他の顧客へのサービス提供にも悪影響を及ぼします。
  • 金銭的損失
    カスハラにより、サービスの値下げや慰謝料要求への対応など金銭的な損失が発生する場合があります。
  • 会社イメージの悪化
    カスハラ問題への対応が不十分であれば、社会的な批判を受け、会社の印象が損なわれるリスクもあります。

他にもカスハラ対策を疎かにした場合、従業員から安全配慮義務違反を理由に会社の責任を問われる可能性もあります。

また、カスハラに対する従業員への教育が不十分で、自社の従業員が顧客や関係先に対してカスハラの加害者となるリスクも考えられます。

必要となる対策

従業員と会社を守るためには、カスハラを未然に防ぐための対策とカスハラが発生した場合の対策が必要となります。

1. カスハラを想定した事前の準備(厚生労働省のマニュアルより)

  • ① 事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発
  • ② 従業員(被害者)のための相談対応体制の整備
  • ③ 対応方法、手順の策定
  • ④ 社内対応ルールの従業員等への教育・研修

事前措置として特に重要となるのは、従業員がどこからがカスハラに該当するのか?といった基準やカスハラ発生時の対応方法などを十分に理解するという点です。社内マニュアル作成時には、例えば「クレームの電話が30分以上続いた時は打ち切って構わない」など、個人の判断が必要ない具体的な基準を示すことが大切です。

これにより、初期対応でカスハラへの発展を未然に防いだり、従業員の精神的な負担を軽減することが期待できます。

2. カスハラが実際に起こった際の対応(厚生労働省のマニュアルより)

  • ⑤ 事実関係の正確な確認と事案への対応
  • ⑥ 従業員への配慮措置
  • ⑦ 再発防止のための取組
  • ⑧ ①~⑦までの措置と併せて講ずべき措置

事後の対応では、誠意ある対応をしつつ正確に状況を把握し、事実確認をする事が求められます。発生のシーンによって対応する際のポイントも変わってきます。初期対応を誤ったために、クレームがカスハラへ発展する事も少なくありません。冷静に対応できるよう、細かな対応のフローをマニュアル化しておくと良いでしょう。また、対応の際、暴力やセクハラ行為があれば即座に上司や専門部署に相談し、単独での対応を避けることが重要です。


令和5年度の職場のハラスメントに関する実態調査によると、過去3年間に従業員からカスハラの相談を受けた企業は27.9%、そのうち「顧客からの著しい迷惑行為」に該当すると判断した事例があると回答した企業は86.8%となっています。増え続けるカスハラに対し、企業の対策が求められています。

日本には「お客様は神様」と考える文化が根強く残っており、対策が遅れているように感じます。前述のように、カスハラは会社全体に大きな影響を及ぼします。

人材不足が社会問題となっている昨今、会社として従業員を守る姿勢を示すことは、離職防止の観点からとても大切になってくると考えます。 法制化はこれからですが、経営上のリスクを考えればカスハラへの対策は待ったなしです。厚生労働省のマニュアルなどを参考に社内の対応を検討していきましょう。