社労士コラム 第84回

年度末となり、新年度の準備も佳境となってきました。毎年、4月の年度初めを起算として36協定の届出をしている会社が多くあります。しかしながら、思わぬ誤解から適正な運用ができていないケースがしばしば見受けられます。そこで今回は、改めて36協定についての基本を確認しながら、間違えやすい点や混同しやすい点を解説したいと思います。この機会に適正に協定の締結と届出がなされているか再確認していきましょう。
36協定とは
労働基準法では、労働時間を1日8時間、週40時間を上限とする法定労働時間と、毎週少なくとも1回、若しくは4週間を通じ4日以上の休日を与えるものとする法定休日を定めています。これにより、原則としてこのルールを超えて労働させることは労働基準法違反となり、罰則の適用もあります。しかし、労使で時間外労働・休日労働に関する協定を締結・作成し、これを所轄労働基準監督署に届け出ることで、定めた範囲内において、法定労働時間を超えた時間外労働や法定休日の労働をさせることができるとされています(36協定による免罰効果)。この例外を定めた条文が労働基準法第36条であることから、この労使協定は「36協定」と呼ばれています。
ここで重要なのは、36協定による免罰的な効力の発生には2つの要件があるということです。1つ目は労使協定を締結すること、2つ目は所轄労働基準監督署に届け出ることです。この2つが適正に行われて初めて、適法に時間外労働や休日労働をさせることができるのです。
適正な労使協定と届出
法令違反にならないよう、労使協定の締結と届出をする必要がありますが、誤解などにより協定や届出が適切でないため、実際には36協定が無効な状態である会社を多く見かけます。
必要な手続きの流れを再確認しながら、誤解しやすい点や不適切なケースについて解説していきます。
36協定は使用者と労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者という。)で締結します。そこで、はじめに過半数代表者を選出する必要があります。
過半数代表者を選出する際の労働者数の算定に当たっては「当該事業場すべての労働者」を基にします。つまり、雇用区分にかかわらず、パートやアルバイトなども含まれます。また、選出は投票や挙手等の民主的な方法であることが必要です。
この点について、選出の際の労働者数の誤解や手続きの形骸化により、過半数代表者を会社が指名していたり、毎年同じ従業員を自動選出しているケース、パートやアルバイトを除いた正社員の過半数代表者であるケースなど選出が適正に行われていないことがあります。また、管理監督者は過半数代表者になれません。選出方法が適切でなければ、過半数代表者とは言えず、過半数代表者でない者との労使協定は無効とされます。
適切な方法で選出していることの証明として、選出方法や過程(投票による選出であれば投票結果など)を記録として残しておくとよいでしょう。
次に、「時間外労働及び休日労働に関する協定書」により労使協定を締結します。ここで、あれ?と思った方も多いのではないでしょうか。実務的に、多くの会社が「36協定届」を協定書としても利用しているからです。
本来であれば、「時間外労働及び休日労働に関する協定書」を締結し、その内容を「36協定届」に転記して届出をすることになります。しかし、実務上は便宜的に「36協定届」の様式に、使用者及び過半数代表者が記名押印・署名をすることで、これを「36協定書」として利用し、労使協定を締結することが認められています。
ここで注意しておきたいのは、様式は「36協定届」であるものの、本質は「36協定書」を兼ねているということです。つまり、労使協定を締結し、使用者及び過半数代表者が記名押印・署名をすることは必須とされています。
しかし、令和3年4月の様式変更により届出様式への押印・署名が不要になったことや、電子申請ができるようになったことで、協定書の記名押印・署名と混同され、実際には過半数代表者を選任したのみで、労使協定を締結していない事案や、記名押印・署名がされておらず結果的に届出のみになっている事案を見受けます。
手続が簡略化されても、過半数代表者の選任、労使協定の締結と36協定届の作成は手順通り丁寧に進めていきましょう。
また、届出のタイミングについても間違われやすいポイントです。36協定届の有効期間は原則として起算日から1年間です。36協定届の効力が発生するためには、届出が必要です。たとえ起算日より前に適正に36協定を締結し、作成しても届出がされていなければ有効とはなりません。起算日を過ぎて届出した場合には、届出日から有効となります。仮に、起算日から届出日までの間で時間外労働や休日労働があった場合、その期間は労働基準法違反の状態となってしまうのです。
協定の締結と作成は起算日より前に余裕をもって行い、起算日までに届出を済ませましょう。
特別条項について
36協定で定められている時間外労働の限度時間は、月45時間、年360時間(対象期間が3か月を超える1年単位の変形労働時間制を採用している場合は月42時間、年320時間)と決められています。
ここで気を付けたいのは、月の上限は各月ごとに判断するということです。年間の限度時間があるため、時折、年間を平均すれば限度時間を超えていないので問題ないと考えている会社がありますが、ひと月でも限度時間を超えた場合には法令違反となります。
例えば製造業などでは、予期せぬ受注量の大幅増加により、臨時的に月45時間を超えて時間外労働をさせる可能性が考えられます。その際は、限度時間を超えて労働させることができるよう「特別条項」を設け、届出しておく必要があります。特別条項を設けた場合、1年について6か月以内に限り、時間外労働・休日労働については月100時間未満、2か月~6か月の平均が月80時間を超えない範囲、時間外労働について年720時間を超えない範囲内で労働させることができるようになります。今回、詳細の説明は割愛しますが、特別条項による上限は業務や業種によって異なります。原則の限度時間を超える場合には監督署や社労士などに確認しながら特別条項を設けることをおすすめします。
毎年の手続きになるため、見直しせず届け出しており実態に沿わない内容になっている場合や、誤解や知識不足から適正な36協定届ができていないことがあります。労務や勤怠管理の基礎の部分になりますので、再確認して適正な労務管理をしていきましょう。




