社労士コラム 第82回

昨年は、育児介護休業法の改正など様々な法改正がありました。今年も様々な労働・社会保険関連の法改正が予定・検討されています。
今回は令和8年4月以降に施行が決定している労働・社会保険関係の法改正について取り上げていきたいと思います。
子ども・子育て支援金の徴収開始
少子化対策として策定された「加速化プラン」により、児童手当の拡充や育児時短就業給付等が開始され、その財源確保のために「子ども・子育て支援金」の徴収が開始されます。
子ども・子育て支援金制度は、全世代・全経済主体が子育て世帯を支える新しい分かち合い・連帯の仕組みとなっており、子ども・子育て支援金は、医療保険加入者全員で拠出することになっています。
健康保険においては、労使折半での負担となり、一般保険料率とは別に子ども・子育て支援金率が設けられた上で、保険料の一部として徴収することになります。
子ども・子育て支援金は令和8年4月分保険料(5月末納付分)から徴収が必要となります。支援金率については、国が一律の支援金率を示すことになっていますが、令和8年度から令和10年度にかけて0.4%程度に段階的に引上げられることが想定されています。
従業員から、子ども・子育て支援金を保険料と合わせて徴収をするにあたり、給与明細書等に保険料額の内訳として子ども・子育て支援金額を示すことは法令上の義務とはなっていません。しかし、子ども・子育て支援金の徴収が始まること、保険料に上乗せして控除する場合はその旨を周知する必要があります。
会社によって、給与明細書等の様式変更や、給与計算システムの設定変更や改修が必要になります。社内整備を早めに進めていきましょう。
在職老齢年金制度の支給停止調整額を62万円に引上げ
在職老齢年金制度とは、年金を受給しながら働く高齢者について、一定額以上の報酬がある方は年金制度を支える側に回っていただくという考えに基づいて、一定の賃金を有する高齢者について老齢厚生年金の給付を制限する仕組みです。
現在、総報酬月額相当額(報酬)と厚生年金の基本月額(年金)の合計が支給停止調整額の51万円を超える場合、超えた額の2分の1が支給停止となります。
令和8年4月から、この支給停止調整額が62万円に引上げられます。
内閣府の「生活設計と年金に関する世論調査」(令和6年)で、厚生年金を受け取る年齢になった時の働き方についての質問に、65歳~69歳の方の31.9%は「年金額が減らないよう時間を調整し会社等で働く」と回答しています。
支給停止調整額の引上げにより、65歳以上の従業員が働きやすくなり、就労調整が緩やかになることで、人材確保がしやすくなると期待されます。
65歳以上の方の就労条件について、支給停止調整額を意識して決定している会社も多いと思います。該当される方について、年度末までに今後の働き方について相談を進めていきましょう。
障害者雇用の法定雇用率引上げ
障害に関係なく、希望や能力に応じて誰もが職業を通じた社会参加ができる「共生社会」の実現という理念の下、障害者雇用率制度が設けられ、全ての事業主に法定雇用率以上の割合で障害者を雇用する義務があります。
令和5年度以降の民間企業の法定雇用率は2.7%ですが、令和5年度は2.3%に据え置かれ、令和6年4月、令和8年7月と段階的に引上げられることとされています。
これにより、令和8年7月から法定雇用率は2.7%となり、常時雇用労働者数が37.5人以上の事業主が対象となります。
なお、障害者を雇用しなければならない対象事業主には、毎年6月1日時点での障害者雇用状況をハローワークへ報告する義務があります。法定雇用率が未達成で、取り組みが不十分とみなされた場合、達成のための行政指導が入ることもあります。
障害者雇用にあたっては、個々の障害の程度や能力、担当業務の範囲、サポート体制の整備、一緒に働く従業員の理解を深める等、雇い入れに様々な準備や配慮が必要です。地域障害者職業センターなど、行政が雇用支援の相談窓口を設けています。行政のサポートを活用しながら、早めに採用計画を立てていきましょう。
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正
労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律によって、個人事業者等の安全生成対策の推進、化学物質による健康障害防止対策等の推進、機械等による労働災害防止の促進等に関する改正の一部が令和8年4月1日施行となっています。
今回は、その中で業種に関わりなく全ての事業主に関わる、「高年齢労働者の労働災害防止の推進」について取り上げたいと思います。
厚生労働省の「労働者死傷病報告」による死傷災害発生状況(令和6年確定値)によれば、労働災害の死傷者数について60歳以上の割合は約30%に及び、高齢労働者の労働災害発生率は高い水準となっています。
この現状を踏まえ、高年齢労働者の労働災害防止を図るために、高年齢労働者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理などの必要な措置を講ずることが事業者の努力義務となりました。
今後、国が事業者による措置の適切かつ有効な実施を図るための指針を定めることとしており、事業主には指針に基づいた取り組みを行っていくことが求められます。
労働力不足の昨今、高年齢労働者の担う役割は少なくありません。努力義務ではありますが、高齢の方でも安全で健康に業務ができるよう配慮し、長く安心して働ける環境作りに取り組んでいきましょう。
今回取り上げた改正以外にも、カスハラ・就活セクハラ防止措置の義務化、社会保険の加入対象の拡大等、労働・社会保険関係の法改正が検討されています。
企業運営に影響が大きい改正が多く予定されていますので、施行が決定した改正に対応することはもちろんですが、法案の検討段階から情報収集をし、専門家と相談しながら早めに対策を検討していきましょう。




