column 社会保険標準報酬月額の随時改定の留意点

社労士コラム 第79回

公開日:2025.10.06、更新日:2025.10.06
社会保険標準報酬月額の随時改定の留意点

全国の地方最低賃金審議会による答申が出揃い、早いところでは10月1日から改定されています。全都道府県で63円~82円の大幅引き上げとなり、これによって、現在の給与を見直す会社が多いと思います。

そして、賃金引き上げによって影響があることの一つに、社会保険の標準報酬月額の随時改定があります。

社会保険の標準報酬月額は、従業員の報酬が、昇給や降給など固定的賃金の変動にともなって大幅に変わったとき、定時決定を待たずに標準報酬月額を随時改定することになっています。

しかし、随時改定の契機は昇給や降給などのわかりやすい場合だけに限られません。

今回は随時改定となる条件の再確認と、見落としやすい随時改定について解説していきます。

随時改定の条件

次の①~③のいずれの条件も満たした場合に随時改定の対象となります。

  • ① 昇給または降給等により固定的賃金に変動があった場合
  • ② 変動月からの3か月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた場合
  • ③ 3か月とも支払基礎日数が17日以上(特定適用事業所に勤務する短時間労働者は11日以上)であること

改定のタイミングは、変更後の報酬を初めて受けた月から起算して4か月目の標準報酬月額からとなります。

①の固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっているものをいいますが、その変動には、昇給や降給だけでなく、給与体系の変更(時間給から月給への変更等)、基礎単価の変更、新たな手当の新設や廃止なども含まれます。

契約内容の変更による随時改定

契約内容が変更となり、賃金額に増減があった場合や給与体系の変更で時間給から月給になった場合等はわかりやすい契機かと思います。

契約内容の変更において見落とされがちなのは、契約時間の変更です。例えば、パートで時給1,500円、週4日、1日8時間勤務だった方が、時間給の変動なしに週5日の契約に変更されたようなケースです。

単価の変動もありませんし、一見すると固定的賃金の変動は無いように思えます。しかし、契約時間の変更は固定的賃金の変動に当たり、随時改定の対象となります。

新しい手当の新設や廃止による随時改定

例えば資格手当のように、毎月定額の手当を新設した場合や廃止した場合は固定的賃金の変動となり、わかりやすい契機といえると思います。

では、非固定的手当が新設、廃止された場合はどうでしょうか?

残業代などの非固定的賃金の増減は随時改定の契機とはなりません。新設、廃止される手当が非固定的賃金であるので、随時改定の対象にならないようにも思えますが、手当の新設、廃止が賃金体系の変更に当たり、固定的賃金の変動として随時改定の対象となります。

ここでもう一つ留意したい点があります。新設された手当が、ある条件によって支給される非固定的賃金である場合の起算月についてです。

例えば、新設された手当が「早番手当」で、早番勤務した日毎に1日500円の手当が支給されるケースで考えてみたいと思います。

随時改定の起算月は変動があった月ですので、非固定的賃金の新設による賃金体系の変更を契機とする場合も、変動のあった月(新設された月)を起算月とします。

先の例で考えると早番手当が新設され支給対象となる月を起算月として、以降の継続した3か月に支給された報酬の平均で随時改定を判断します。

しかし、対象の3か月の間に1度も早番勤務が無く、支給が全く無い場合もあります。また、3か月毎月支給される者もいれば、2か月目のみ支給される者も出てきます。この場合はどのように取り扱えばいいのでしょうか?

起算月以降の3か月の間に1か月でも支給があった場合には随時改定の対象となります。なお、この3か月の間にいずれの月も支給が無かった場合には、報酬の変動要因としてみなすことができないため、随時改定の対象とはなりません。その後、支給があったとしても、支給のあった月を起算月とすることにもなりません。


随時改定は、この他にも一時帰休があった場合、休職期間中に昇給、降給があった場合など留意すべき様々なケースがあります。賃金体系は各会社独自のものも多く、判断に迷うことや見落としてしまう場合もあります。

日本年金機構のHPに標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱いに関する事例集が掲載されています。一度目を通しておくと該当のケースが発生した際にも対応できると思います。

また、漏れなく手続きを行うためにも、労働契約の変更や賃金体系の変更など、報酬に関する変更があった場合には社労士や行政に確認しながら進めていくのがおすすめです。

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