年次有給休暇の時季指定義務(年5日の取得義務)を再確認
コラム 第75回
厚生労働省の就労条件総合調査によると、令和5年の年次有給休暇取得率は65.3%で昭和59年以降過去最高となっています。取得率の推移をみると、平成31年を境に大幅に増加しており、年次有給休暇の時季指定義務導入が大きな影響を与えていると言えそうです。
今回は、この年次有給休暇の時季指定義務について、相談の多い育児休業時の対応や計画的付与制度との相違点にも触れて確認していきたいと思います。
年次有給休暇の時季指定義務とは
年次有給休暇(以下、「年休」という。)は、従業員が取得時期について自由に指定して取得するのが原則です。しかし、例外として、年10日以上の年休が付与される従業員に対して、付与された日数のうち年5日については、使用者が時期を指定して取得させることが義務とされており、これが「時季指定義務」です。
なお、時季指定の際は、取得時期について従業員の意見を聴取し、尊重するよう努めなければなりません。
時季指定義務の対象者
時季指定義務の対象となるのは、1年に年休が10日以上付与される者です。パートタイマーや管理監督者も含め、10日以上付与される全ての従業員が対象となります。週所定労働日数が少ないパートタイマーで、年休が比例付与の者でも、1年の付与日数が10日以上となれば対象となります。(例えば、週所定労働日数が4日のパートタイマーで、3.5年以上勤務した場合は、10日付与のため対象となります。)
従業員が原則どおり、自ら申し出て年次有給休暇を5日以上取得済である場合は、使用者による時季指定は不要です。
育児休業者の対応は?
育児休業者は、産前産後休業も含めると1年以上の長期にわたり休業となります。付与日前から休業しており、付与日から1年間の全てが休業期間である場合は、1日も労働日がないため、年休を取得させることができず対象外となります。
しかし、付与日後から育児休業までの間や、復帰日から次の付与日までの間に労働日がある場合には対象となります。例えば、復帰日から次の付与日までに5日以上の労働日があれば5日取得させる必要があります。ただし、復帰日から次の付与日までの期間の労働日が5日未満で、残りの期間で5日を取得させることができない場合には、可能な日数を取得させることで差し支えないとされています。
時季指定義務と計画的付与制度
年休には、時季指定義務とは別に年休の「計画的付与制度」があります。付与された年休のうち年5日を超える日数分について、労使協定を結ぶことで、あらかじめ日を決めて計画的に取得させることができる制度です。(制度導入には就業規則への記載が必要です。)
年5日は従業員が自由に取得できるように残し、5日を超える分について、従業員に一斉に取得させることができるので、年休取得率を上げたり、時季指定義務の5日について、その一部や全部を計画的に取得させることができ、取得義務の管理がしやすくなります。
「年5日」という共通するワードがあること、計画的付与は労使協定(合意)によって決まりますが、多くの場合、業務の都合を考慮し、会社主導で取得日が提案されること、計画的付与により取得させた日数は、時季指定義務の5日にカウントすることができること、これらの事情により「時季指定義務」と「計画的付与」の違いがわからず混乱され、相談を受けることがあります。
簡単に相違点を整理してみました。
- ①「時季指定義務」は労働基準法で定められた義務であるのに対し、「計画的付与」はその導入が任意であり、制度導入には就業規則への記載と労使協定の締結が必要である。
- ②「時季指定義務」は付与した日数のうち「年5日」を取得させる義務であるのに対し、「計画的付与」は付与した日数のうち「年5日を超える分」について労使協定に基づいて計画的に取得させることができる制度である。
年次有給休暇の時季指定義務については、導入から一定期間が経過し、各会社できちんと管理されていることと思いますが、時季指定義務や年次有給休暇管理簿の作成・保管は違反すると罰則(1人につき30万円以下の罰金)もあります。この機会に、今一度、年次有給休暇の制度や義務、係わる規程の再確認をしておきましょう。