コラム 第56回裁量労働制の新ルールについて

今回は、2024 年4 月以降に施行される法改正のうち、裁量労働制の導入・継続のための新たなルールについて解説します。

■ 裁量労働制とは?

裁量労働制とは、実労働時間にかかわらず、仕事の成果や実績などで評価を決める制度のことです。事業主は、業務の遂行の手段や時間配分などに関して、具体的な指示は出さず、労働者の裁量に委ねられています。裁量労働制には、「専門業務型裁量労働制」と「企画業務型裁量労働制」の2 種類があります。

専門業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制
業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として、厚生労働省令及び厚生労大臣告示によって定められた業務に従 事する労働者 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査及び分析の業務であって、業務の性質上、これを適切に遂行するために、業務遂行の手段や時間配分等を大幅に労働者に委ねる業務に従事する労働者

■ 法改正ポイント

(1)専門業務型 対象業務に1業務追加
1新商品若しくは新技術の研究開発又は人文科学若しくは自然科学に関する研究の業務
2情報処理システム(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として複数の要素が組み合わされた体系であつてプログラムの設計の基本となるものをいう。(7)において同じ。)の分析又は設計の業務
3新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務又は放送法(昭和25年法律第132号)第2条第4号に規定する放送番組若しくは有線ラジオ放送業務の運用の規正に関する法律(昭和26年法律第135号)第2条に規定する有線ラジオ放送若しくは有線テレビジョン放送法(昭和47年法律第114号)第2条第1項に規定する有線テレビジョン放送の放送番組(以下「放送番組」と総称する。)の制作のための取材若しくは編集の業務
4衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6広告、宣伝等における商品等の内容、特長等に係る文章の案の考案の業務(いわゆるコピーライターの業務)
7事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握又はそれを活用するための方法に関する考案若しくは助言の業務(いわゆるシステムコンサルタントの業務)
8建築物内における照明器具、家具等の配置に関する考案、表現又は助言の業務(いわゆるインテリアコーディネーターの業務)
9ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10有価証券市場における相場等の動向又は有価証券の価値等の分析、評価又はこれに基づく投資に関する助言の業務(いわゆる証券アナリストの業務)
11金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務
12学校教育法(昭和22年法律第26号)に規定する大学における教授研究の業務(主として研究に従事するものに限る。)
13公認会計士の業務
14弁護士の業務
15建築士(一級建築士、二級建築士及び木造建築士)の業務
16不動産鑑定士の業務
17弁理士の業務
18税理士の業務
19中小企業診断士の業務
20銀行または証券会社における、顧客の合併・買収に関する調査または分析、およびこれに基づく合併・買収に関する考案および助言の業務 NEW!!
(2)専門業務型 労使協定の項目追加

制度適用にあたって本人の同意を得ること、同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと、また同意の撤回の手続きと、その撤回に関する記録を保存 協定の有効期間中およびその期間満了後5年間 当面の間は3 年間 することを、労使協定で定める必要があります。

(3)企画業務型 労使委員会の決議事項の追加

制度適用に関する同意の撤回の手続きと、その撤回に関する記録を保存 協定の有効期間中およびその期間満了後5 年間 当面の間は3 年間 することを、労使委員会の決議に定めます。

また、労使委員会の運営規定には、使用者から労使委員会に対し、対象労働者に適用される賃金・評価制度の内容について説明する事項を定め、それらを変更する場合は、労使委員会に変更内容を説明することも、労使委員会の決議に定める必要があります。

なお、労使委員会は、制度の実施状況の把握と運用改善を行う為の運営規定を定め、6 か月以内ごとに1回の頻度で開催しなければなりません。

専門業務型裁量労働制の労使協定 企画業務型裁量労働制の労使委員会の決議
制度の対象とする業務 制度の対象とする業務
労働時間としてみなす時間(みなし労働時間) 対象労働者の範囲
対象業務の遂行の手段や時間配分の決定等に関し、使用 者が対象労働者に具体的な指示をしないこと 労働時間としてみなす時間(みなし労働時間)
対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置 対象労働者の労働時間の状況に応じて実施する健康・福祉を確保するための措置
対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置 対象労働者からの苦情の処理のため実施する措置
制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること NEW‼ 制度の適用に当たって労働者本人の同意を得ること
制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと NEW‼ 制度の適用に労働者が同意をしなかった場合に不利益な取扱いをしないこと
制度の適用に関する同意の撤回の手続 NEW‼ 制度の適用に関する同意の撤回の手続 NEW‼
労使協定の有効期間 対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合に、労使委員会に変更内容の説明を行うこと NEW‼
労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を協定の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること NEW‼ 労使委員会の決議の有効期間
労働時間の状況、健康・福祉確保措置の実施状況、苦情処理措置の実施状況、同意及び同意の撤回の労働者ごとの記録を決議の有効期間中及びその期間満了後5年間(当面の間は3年間)保存すること NEW‼

出展:厚生労働省リーフレット「事業主の皆様へ 裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」


これらの適用期日は令和6年4月1日です。裁量労働制を新たに導入・継続して適用する為には、労働基準監督署へ協定届・決議届を行う必要がありますので、余裕をもって準備するようにしましょう。

2023.11.01