コラム 第28回過重労働防止のために注意すべき労働時間管理について

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2020年11月に実施された「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果が厚生労働省より公表されました。このキャンペーンは、長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業場や若者の「使い捨て」が疑われる事業場等、労働基準関係法令の違反が疑われる事業場に対して、監督指導が実施されたものです。

この実施結果から、労働時間管理を行う上で注意すべき事項を確認していきます。


  • 1. 主な違反内容

    今回、重点監督の対象となった9,120事業場のうち、6,553事業場(全体71.9%)で労働基準関係法令の違反がありました。主な法違反は、「違法な時間外労働があったもの」が2,807事業場(全体の30.8%)、「過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの」が1,829事業場(全体の20.1%)、「賃金不払残業があったもの」が478事業場(全体の5.2%)となりました。

    【重点監督結果のポイント】
    • (1)監督指導の実施事業場: 9,120 事業場
    • (2)主な違反内容((1)のうち、法令違反があり、是正勧告書を交付した事業場)
      • ①違法な時間外労働があったもの: 2,807 事業場(30.8%)

        うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が月80時間を超えるもの: 640 事業場(22.8%)

        • - うち、月100時間を超えるもの: 341 事業場(12.1%)
        • - うち、月150時間を超えるもの: 59 事業場(2.1%)
        • - うち、月200時間を超えるもの: 10 事業場(0.4%)
      • ②賃金不払残業があったもの: 478 事業場(5.2%)
      • ③過重労働による健康障害防止措置が未実施のもの: 1,829 事業場(20.1%)
    • (3)主な健康障害防止に係る指導の状況((1)のうち、健康障害防止のため指導票を交付した事業場)
      • ①過重労働による健康障害防止措置が不十分なため改善を指導したもの: 3,046 事業場(33.4%)
      • ②労働時間の把握方法が不適正なため指導したもの: 1,528 事業場(16.8%)

    この中で、一番違反の多かった労働時間について、典型的な違反内容は以下のようなものとなっています。

    • ①[労働基準法第32条]
      • 時間外労働を行う場合、事業場単位で時間外・休日労働に関する協定(以下、「36協定」という)を締結していない。
      • 過半数代表者の選出が適正に行われていない等で、36協定が無効である。
      • 時間外労働を行う場合、36協定で定める限度時間の範囲を超えて時間外労働をさせている。
      • 36協定に定められた手続きを行わずに、特別条項に基づく時間外労働をさせている。
    • ②[労働基準法第36条第6項]
      • 時間外労働の上限規制を守っていない。
  • 2.労働時間の適正な把握

    今回、重点監督の対象となった9,120事業場のうち、1,528事業場(全体の16.8%)に対して、労働時間の把握が不適正であるため、労働時間適正把握ガイドラインに適合するように指導が行われています。指導事項で多かった上位2つは、「始業・終業時刻の確認・記録」と自己申告制による場合の「実態調査の実施」となっています。

    「始業・終業時刻の確認・記録」では、会社は労働時間を適正に把握するため、従業員の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録することが求められています。

    また、自己申告制による場合の「実態調査の実施」では、自己申告により把握した労働時間が実際の労働時間と合致しているか否かを、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の補正を行う必要があります。さらに、自己申告した労働時間を超えて事業場内に残っている時間については、その理由等を従業員に報告させる場合、その報告が適正に行われているかを会社は確認する必要があります。

以前は、賃金不払残業に関する指導が主となっていましたが、近年は時間外労働の協定内容や手続きに着眼点が置かれるようになり、労働時間の把握も指導事項として多くみられます。勤怠ソフトを使用して労働時間の把握をしっかり行う等、自社の実務運用に問題がないか確認を行い、問題点は早急に改善していきましょう。

2021.06.23