賃上げと合わせて検討したい「賃上げ」支援助成金パッケージ
コラム 第77回
7月11日から中央最低賃金審議会で、令和7年度の地域別最低賃金額改定額の目安について審議が開始されました。政府は2020年代に全国平均1,500円の目標を掲げており、今年度も昨年に引き続き大幅な引き上げとなることが予想されます。
人手不足や物価上昇など、昨今の経済状況から考えても賃金引き上げは不可避の状況ですが、原材料費の高騰や価格転嫁の難しさ等が収益を圧迫し、特に中小企業では賃上げが難しい状況となっています。
このような状況を踏まえ、政府は「賃上げ」支援助成金パッケージとして、各種助成金制度による支援策を打ち出しています。
今回はこの「賃上げ」支援助成金パッケージについて取り上げたいと思います。厚生労働省のHPでは8つの助成金が紹介されていますが、特に活用の機会がありそうな5つをピックアップしました。
賃上げ支援助成金パッケージ
1.業務改善助成金
事業場内最低賃金を30円以上引き上げ、生産性向上のための設備投資等を行った中小企業にその費用の一部(最大で600万円)が助成される制度です。
中小企業・小規模事業者であり、事業場内の最低賃金と地域別最低賃金の差額が50円以内で、解雇や賃金引下げなどの不交付事由がない事業者が対象となります。
対象となる事業場ごとに、賃金引き上げと設備投資等の計画を立て、事前に交付申請することが必要となります。交付決定後に、承認された計画どおりに賃金引き上げと設備投資等を進め、事業完了後に結果報告をし、適正と認められれば助成金の支給を受けることができます。
対象となる設備投資等は、例えば在庫管理もできるPOSレジシステムの導入による作業時間の短縮や、タブレット型のセルフオーダーシステム導入による作業効率の向上と回転率の向上、コンサルティングの実施により業務フローの見直しをしたことによる生産性向上等です。その他にも厚生労働省のHPで「生産性向上のヒント集」として様々な事例が紹介されています。
業務改善助成金には「申請期間」「賃金引き上げ期間」「事業完了期限」が決められています。第2期の申請期間と賃金引き上げ期間の終期は“申請事業所に適用される地域別最低賃金改定日の前日”となります。地域別最低賃金の発効は、例年10月初旬になりますので、地域別最低賃金の発効に対応した賃上げや助成金活用を検討される場合には更新申請や実施の時期に注意が必要です。
2.キャリアアップ助成金(賃金規定等改定コース)
有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を3%以上増額改定し、その規定を適用させた場合に引き上げ率に応じ、1人当たり4万円~7万円(中小企業の場合)が助成される制度です。
対象となる労働者は、賃金規定等を増額改定した日の前日から起算して3か月以上前の日から、増額改定後6か月以上の期間継続して雇用されている有期契約労働者等です。なお、賃上げ対象とする労働者を雇用形態別や職種別など一部の者に限定しても対象となります。
既存の賃金規定を改定した場合だけでなく、新たに規定を作成した場合であっても、対象労働者の3か月の賃金の支給実態と比較して3%以上の増額が確認できれば助成対象となります。また、職務評価の手法の活用により賃金規定等を増額改定した場合や、有期契約労働者等に適用される昇給制度を新たに規定した場合には助成額に加算があります。
キャリアアップ助成金は、事前のキャリアアップ計画届の提出が必須となります。賃金規定等改定コースでは、賃金規定の改定日がキャリアアップ計画期間内である必要があります。今後の地域別最低賃金の引き上げを見越し、賃上げを検討している場合には、早めにキャリアアップ計画を策定していきましょう。
なお、支給申請期間は、賃金規定等を増額改定した後6か月分の賃金を支給した日の翌日から2か月以内となっています。
3.働き方改革推進支援助成金
労働時間の削減や年次有給休暇の取得促進等に取り組む中小企業事業主に、外部専門家のコンサルティング、労働能率の増進に資する設備・機器の導入等を実施し、成果を上げた場合に、設備投資などにかかった費用に対し助成される制度です。助成額には賃金を引き上げた労働者数によって加算があります。
業務改善助成金と対象となる取組(こちらも取組事例が「生産性向上のヒント集」で紹介されています。)が似ていますが、働き方改革推進視点助成金は労働時間数の縮減、年次有給休暇の促進といった環境整備の向上が達成目標となります。
具体的には①月60時間を超える36協定の時間外・休日労働時間数の縮減、②年次有給休暇の計画的付与制度の新規導入③時間単位の年次有給休暇制度と、交付要領に規定される特別休暇を1つ以上新規導入の3つの内、1つ以上を選択します。
上記①~③に加えて、指定する労働者の時間当たりの賃金額を3%以上、5%以上、7%以上引き上げることを成果目標に加えることができ、達成した場合には助成金の上限額が加算されます。
こちらも事前の交付申請が必要で、交付決定後に計画に沿って取組を実施し、事業実施予定期間が終了した後に申請することで支給となります。
4.人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)
人材確保のために、賃金規定制度や人事評価制度等の雇用管理改善につながる制度の導入や、作業効率を上げる機器等の導入による雇用環境の整備により、離職率低下を実現した事業主に助成される制度です。加えて賃上げを5%以上行った場合には助成額や助成率、上限額に加算があります。
賃金引き上げの要件を満たし、雇用管理制度について複数の措置を実施した場合には最大で100万円、雇用環境整備に取り組んだ場合は最大で187.5万円の助成が受けられます。
事前に、雇用管理制度等整備計画を作成し認定を受ける必要があり、整備計画期間の末日の翌日から12か月経過するまでの期間に、離職率が目標値を達成している場合に助成されます。
5.人材開発支援助成金
職務に関連した専門的な知識や技能を習得するための、職業訓練実施と訓練後の賃上げを実施する事業主に対して、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に計画届を提出し、計画に沿って訓練を行う必要があります。
人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コース等、様々な訓練を対象としています。令和7年4月1日から助成率や添付書類の簡素化など制度の見直しが行われ、より活用しやすくなっています。
今回取り上げた助成金以外にも、より高い処遇への労働移動等に対する助成金(早期再就職支援等助成金(雇入れ支援コース、中途採用拡大コース)、特定求職者雇用開発助成金(成長分野等人材確保・育成コース)、産業雇用安定助成金(スキルアップ支援コース))も支援策として打ち出されています。
なお、いずれの助成金も細かな支給要件があり、事前の計画届や申請が必要になります。期限や手順を間違えてしまうと助成が受けられない場合がありますので、取り組みを検討される場合には顧問社労士や労働局などに相談することをおすすめします。
最後に、最低賃金の引き上げや人手不足等の状況から、賃上げは避けて通れない状況です。業務改善や人材育成、雇用環境整備などの企業運営の戦略に助成金を上手く活用することで、賃上げと会社の成長を同時に実現できる可能性があります。
この機会に賃上げの課題と共に、実行できる取組みがないか検討してみてはいかがでしょうか。
【厚生労働省HP:「賃上げ」支援助成金パッケージ】
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/package_00007.html